柴犬主任の可愛い人
 
 
――……


外の様子が見える一番近くの窓が柴主任のデスクの向こうだったため、自分で確認することはしなかったけど、他の人たちが時々話すのを耳にしては、雪は激しく吹雪はしないものの、相も変わらず降り続いているみたいだ。


今日は全員定時上がりにしなければ。明日は土曜日で良かったと各々が話していて、近くの会話には私も相槌を打つ。


明日は雪景色だ。




もうすぐ終業時刻を迎える頃、ひとりの先輩が声をかけてきた。


「神田さん。柴主任に、何か変わったことなかった?」


「っ」


なんで私に訊くんだろうと心臓が早鐘を打ってしまったけど、どうやら狙いを定められたわけじゃない。こっそりと内密に、ある特定の人にだけそうしていて、最後が私らしい。


「なんかね……少し変だったから」


雪が降り続き、皆家路へと少しでも早く帰ろうとする中、柴主任はどうやら帰りたがらないみたいで――全員参加の飲み会本日開催を決行したがり、先輩が雪のことを言うと、ぼんやりとしながら全員の宿の手配をこの近辺でしようかと電話帳開いてみたり……なんで分厚い電話帳をわざわざ……。


ちなみに、先輩は柴主任を守る会の副会長だ。柴主任の同期で、会の発起人のひとりらしい。話を聞いた特定の人とは、会に所属する人間。


準会員である私にも副会長自ら訊ねにくるなんて、先輩にはよっぽど酷く見えるのか。ていうか、脱会、しなきゃな。


「さすがに今日は誰も付き合えないのよね。……けど、あんなの初めてでちょっと気になって」


会の発足のきっかけとなった元婚約者ストーカー事件のときでも、帰りを気にすることはなかったらしい。


「……すみません。思い当たる節はなくて」


そう、ならいいのよごめんなさい。先輩も帰り支度をするために戻っていくのを見送り、……自惚れるなと唇を噛んだ。


なんで飲み会とかは知らないけど。




様子がおかしいのは私のせい……?


二時間前には腹を立てていて、今だってそうなのに自惚れを抑制しなきゃいけないなんて……いったい私もどうしたいの……人のこと言えない。


散らばる気持ちを一纏めに出来ないまま、時間だけが過ぎていく……。


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