柴犬主任の可愛い人
なんで、柴主任はこんなにも……。
まずは誤解を解かせて下さいと言われたそれに、初っぱなから思考はついていかなかった。
「お見合いは、しました」
「……」
「けど、義理とか、仕方なく、といったものでしたね」
「そう、なんですね。……なのに意気投合して。運命的ですね」
「……とりあえず、青葉さんは黙っていて下さい……。――お見合いは断りましたよ。もちろん」
「っ!!」
ならあの会話は? 部長や広瀬と話してたよね?
何処でそれを耳にしたと問われ、私は白状する。口を開きながら――あれ? 私黙ってろって言われたのに――混乱はさらに混乱を呼び、求められるままにすらすらとそのときのことが事細かに飛び出していく。柴主任は実は魔法使いなのかもしれないと、阿呆な頭はどうでもいいことを考える。だって広瀬も同じような目にあっていたし。
「なるほど」
「だから、あんまり仲良くしてもらうと、婚約者の方に失礼かなって。……私だったら嫌だから」
「うん――なるほど。けど、お見合いは断ったって、僕は言いましたよね。……全く……青葉さんは面白い早とちりをする天才ですね」
今回に限っては笑えませんが。……その通りに目は一切笑っていなく、それでいて口元は妙ににやけながらという器用な芸をやってのけながら、柴主任はあの日の真相を、耳かっぽじって聞きやがれみたいなことを前置きしてから教えてくれた。
部長に持ち掛けられたお見合いを速効で断ると、相手も同じ気持ちらしいから大丈夫だ。お見合いしたという事実だけはどうしても必要だからと頭を下げられたらしい。ならば何故勧めたか……。
「恩は売っておくものかと。相手の人も結婚したい人がいるようで、それに反対する親族の愚痴を聞いてあげて終わりました」
喫煙室での会話は、そのお礼だった。
「だから、青葉さんが僕のことを思ってそうしてくれていたのなら、その必要はないです。ありがとうございます」
「でも……」
でも、いつかは同じ事態に直面する。離れ難くなればなるほど私は辛いのだ。まだまだ好きになっていけるような人の近くになんて、もう嫌。
泣くだけだ。