柴犬主任の可愛い人
 
 
「僕の好きな人は――いつも幸せそうにご飯を食べて、お酒を呑んでは面白く酔っぱらう。おそらく、鶏肉大好きだと思います。毎回鳥料理を何か食べている。焼酎を呑ませたら気に入ってしまい、後日、店から同じものを大瓶で買っていました。豪快でいいですよね」


「ど……っ」


口を開こうとしたら、柴主任は私の唇を摘まんで喋れないようにしてきた。両手であまりにもぎゅっと摘まんでくるものだから、所謂アヒル口の程度の大きい、可愛くないやつになってるはず。


鼻で息をすると、ぴいぴいと音が鳴って恥ずかしい。


口は解放されないものだから、私は一方的に柴主任の話すことを、恥ずかしい状態で聞くこととなる。


「わりとすぐに泣くし、元気よく笑うし、すぐに怒るけど僕に本気で呆れることなくいてくれる優しい人で。一緒に呑むようになるまでもいい子だなとは思ってましたが、もっと印象は良くなりました」


「僕の駄目な過去を悩むことじゃないと一蹴してくれ心が軽くなった。同じように、その人のことも軽くしてあげたかったけれど、果たして僕はそれを出来ていたかどうか……もっと何かしてあげたいと悩む頃には、もう、好きで好きでたまらなくなっていました」


「倒れたときに僕に連絡をくれたのは言葉にならないほど誇らしかった。この手が、救えたのだと泣きましたよ。可能なら一生僕だけが抱え込んで大切にしたいと傲慢にも思った」


「元彼が来たとき、あれは助けたのではありません。さらっていかれないように、横槍を入れにいったにすぎない。……勝手な僕は、こうしてまた、その人が新しい出会いに向けて踏み出そうとしているのを、邪魔している。誰かのものになんて……なってほしくないんです。僕のものにならなければ、一生、もう恋愛なんてしてほしくない」


鳥料理が大好きで焼酎を店から買う。すぐ泣いてすぐ怒って、いい加減なこと言う柴主任に付き合う。柴主任を何も知らないのに、勝手に過去の辛かったことを一蹴し、自分のほうが最悪だと不孝自慢した。盲腸のときは柴主任しか思い付かなかった。元彼が来て困ったときには助けられた。横槍なんて思ってない。今、駄々をこねられているのは、腹が立つのにとんでもなく嬉しい。


怖いくらいに、それは私とも一致した。


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