柴犬主任の可愛い人
可愛くないアヒル擬きの唇は、ようやく解放される。
「時々、自惚れてもしまうんです。僕は勝手だから。でも僕はその人がわからない。彼氏を作りたいからもう会わないと言いながら、本当は僕が結婚するから離れると思いやってくれる。それを白状するときは泣きそうで――いつも、僕と別れる瞬間は泣きそうで寂しそうになるようになっていて」
自惚れならば殴られて振られたいのだと、柴主任は、掴んだ私の腕を持ち上げて。
私の手のひらは、柴主任の頬にあてられる。
「青葉さん」
「……は、い」
「僕は青葉さんが好きなので、合コンなんかに行ってほしくありません。行って彼氏を作るなら、僕を殴って振ってからでお願いします」
なんで、柴主任はこんなにも、どうしようもない私を好きだと言ってくれるんだろう。
私なわけはないと、思いたがってるのか……。
好きだと、こんなに真っ直ぐ伝えてくれたのに、私には自信なんてものありやしない。
頬に手は添えたまま、顔は俯ける。疑いの眼差しなど真っ直ぐなそれに向けられるはずがない。
「……だって、もう、柴主任は社内の人は好きにならないって……」
「確かに言いましたが、青葉さんだって同じようなものだったでしょう。それで二の足踏む気持ちは、僕にも当然ありましたよ」
「私は、大事にはしてもらったけど、呑み友達で。だからこそ、あんなに仲良くなれて」
「大事ですよ。一番大切です」
「いつも一緒にいると楽しくて。優しくて……でも、柴主任は皆にそうでしょ。特別なんて自惚れちゃ駄目だって」
「僕は、青葉さんにだけはとびきり優しくしてますよ。他は面倒だからごめんです。だらだらするのが好きなんです。青葉さんのほうがもっと好きですけどね。――だから、ああだこうだ面倒なこと言ってないで、僕をどう思ってくれているのか、とっとと教えてほしいです」
最後はどうかと思う催促に、私は顔を上げる。振られるなら土日に突入する今日が最適だからと眉を下げて微笑む柴主任に、一言。
「好きです」
返事をした。