柴犬主任の可愛い人
 
 
「なんでよぉっっ!?」


「お疲れ」


「そんなぁっ!!」


それそれがそれぞれに一斉に口走った。


私は広瀬に驚き、広瀬は私を労い、柴主任は私のバレたら退職宣言に叫んでいた。


広瀬から少し離れた後ろには、私たちが会議室に入る前まで残っていた人たちが、幾人かは減ったけど揃っていて。


「え……っ、どして……」


代表して広瀬が答える。


「だって喧嘩にならないか心配するじゃん。それに汐里に、神田が柴主任に拉致られたって言ったら、詳細求むっておねだりしてくるからさあ――まあ、でも、おめでとう?」


そんな祝辞は述べなくていいっ。……見ると、広瀬の後ろにいる人たちからもちらほらおめでとうの声が。残っていたのは柴主任を守る会の会員ばかりで、副会長である先輩なんかは涙を滲ませていた。神田さんなら大歓迎だわとか、なんか合格点貰ってるっ。


……終わった……。


「青葉さんっ」


うん。終わった。


他の人ことなんてまるで気にもせず、柴主任は後ろから私の肩をがしっと掴んで縋ってくるし。……バレたって、慎んでいただきたい。


「私……会社辞める……これは潮時というやつかもしれない」


自暴自棄気味なのはわかってる。でも、バレたらどころかなんか恥ずかしいところまで全部見られてたなんて……もう今ここから消えたい。


「そんなっ!! まだ青葉さんと二人きりで残業とかエレベーターに閉じ込められて二人きりとかその他諸々まだやってないのに辞めないで下さいっ!!」


なんだそれっ。……私に好きだと言わなかったのは、どうやらそれも多大に影響しているのだと、半泣きの柴主任を振り返り、確信する。


上司としての引き留めが完全に抜け落ちてる私の好きな人は、普段の職場仕様の穏やかさなど微塵も窺えず。


そんないつもとまるで違う様子の柴主任を見ても、動揺することなく、むしろ成長を喜ぶみたいな守る会の会員様方に言葉をなくし……


意識を飛ばしてしまえたらどんなに楽だろうと、目を閉じてみた。






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