柴犬主任の可愛い人
主任はいったい、どんな気持ちで事件に巻き込まれ、解決をし、今、こうして私に眉を下げ微笑み、謝ってくれてるんだろう。
噂を軽く言う人たちに対して嫌悪を抱きはしたものの、それを最後まで遮らず最後まで耳を傾けてしまった自分を今さら恥じる。
同時に、今こんなに穏やかな主任を、とても強い人だと。
「神田さんも知っていますよね」
「……すみません」
「いえいえ。まあ、何処かでネタにしつこく上がるくらいのことだったですし、そう早く色褪せていくものだとも思っていません。ああいった出来事は特にね」
違う、とは反論出来なかった。この件に関さずとも、思い当たる節は顔を背けたいくらいある。
……ああ、人間ってヤダヤダ。他人の不幸事を糧にしてしまう生き物だ。
思い当たる主任の過去は、それが原因で正解だと告げられる。
つまり、元からあった社内恋愛に寛容でない風潮が、主任の事件のせいで、やはり面倒なことになりかねないという風向きの強さが増したのだそう……馬鹿みたいだけど。
「馬鹿みたい……」
「本当ですね」
主任が強く頷き意気込むと、ここでようやく店長さんご夫妻の強張りが解けたような気がした。店長さんご夫妻は主任のあれこれを知ってて、きっと心配をまだまだしてて、主任が自ずから発する様子のその種類を、やきもきしながら静観していたのだと今理解する。
安堵すると同時に主任のグラスは店長によりかっさらわれ、新鮮な焼酎ロックが渡されてた。
「馬鹿みたいな会社。マジで」
「いずれ、そっち方面にも意見出来る立場になろうと頑張っているので待っていて下さい」
波風が立たない、安穏としたことを好みそうな主任には意外な野心だった。少し驚きながら、でもどうせなら今日退職した楓さんに間に合ってほしかったなと思った。
そうして身勝手な私は、主任の優しさとか芯の強さに、とても泣きたい気持ちになる。
身勝手に、そんなことはないよと、主任がなんで私にまで悪くないことを謝るんだと、言いたくなった。