柴犬主任の可愛い人

 
「違いますよ~主任。私にそんな人いません。――あっ、社外にはいたかな。四ヶ月前にプロポーズされて、二ヶ月前に破棄されましたけど」


だから、主任が心配することはないのだ。


……酔いって、恐ろしい。てか、少し前から完全なる酔っぱらいだったよね。
引き気味の御三方に、私がそのとき気付くはずはなかった。……酔ってたからね!!


弱くもなく強くもなく、それなりにお酒とは付き合えるんだけど、たまに、たまに悪い酔いかたをする。深夜番組の生討論の如く互いの主張をぶつけ合いたくなったり、泣きたくなったり同情的になったり、たまにずっと楽しいと笑ってもいるらしい。


なんでかな。空きっ腹がいけなかったのか。熟睡出来ない日が続いてたからなのか。ここが、居心地よくて気が緩みすぎたかな。
今日の私は、悪い酔いかたをしてしまってるらしい。種類は泣きと同情的だ。……そして、それを制御不可能なうえで、客観視する己が必ず俯瞰から一連の行動を録画してるのだ。再生は素面になってから。


「主任のなんてね、主任に非はないんだし今こうしてこんな私の上司してくれてるし皆から信頼あるしいい人だし、気に病むことはないですよ」


「は……い」


「私なんてね、何もしてないのにある日突然もう無理とか言われたんですからね~……プロポーズ受けて喜んで結婚情報誌とか買ってぇ、式に向けてダイエットしたり髪を綺麗に伸ばそうとかしてたら、突然破棄されましたよっ。予感させることは何もなく突然沸いた私への完全否定は、ワケを言葉にしてくれることもないまま、ごめんの一言だけで別れましたよぉぉぅっ……うわっ、超悲惨。人間としての価値を私は今も見失ってさ迷ってる最中なんて悲惨極まりないっ」


唯一の救いは、友達や会社には未報告だったこと。楓さんには速効報告したけど。
ちゃんと私からのお祝いを受けてくれた楓さんに、やっぱりどうしようもなく憧れた。私も楓さんみたいな女性だったなら、良かったのかな。


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