柴犬主任の可愛い人
 
 
いえ私は。そんな気は今なくて。友達に聞いてみて参加する人がいたら連絡します――などと逃げてもついてくるついてくる。今ここで一人でも人員の確保がしたいと、古村さんは情熱の男だった。


婚約破棄されたばっかで当分そんなのはごめんだっ。なんて、言わない。もう柴主任以外に言ってたまるか。


いっそのこと倒れる真似でもして、広瀬に救護係の役目をさせてあげようかと逃げながら考える。広瀬が遠く前方の視界に入り、計画を実行する前に持ってる紙コップのお茶を飲み干してからにしようと歩くスピードを緩めたところ、シャッター音が響いた。


「古村のストーカー現場を押さえました。直ちに神田さんから離れて下さい」


本日の記録係、柴主任がデジカメ片手に私と古村さんを連写していた。


「っ……柴んとこの、部下?」


「そうです。久し振り、古村」


「だな。お前がそっち行って以来?」


「この前会議でも会っただろう。話さなかったけど」


柴主任と古村さんはどうやら同期で、以前は同じ職場だったそう。てことは、主任は店舗にもいたのかな。ずいぶん前に会話で、本部よりもお客様と接する店舗の苦労は計り知れなくて大変だろうと私が言ったときに誉めてくれたのは、現場を解ってるからのことだったのか。


「柴、頼むっ。お前からも神田さんにパーティーの参加頼んでくれよ~」


「げっ……」


思わず漏れた心の声は喧騒に紛れたようだった。


雨天で中止になれっ。鬱陶しい曇天を見上げ降雨を願うけど、神通力など微塵もないから祈るだけ無駄だった。私がイエスと言わない限り続くと見られた古村さんの勧誘、けれど柴主任の言葉により、私はそれから解放されることとなる。


「古村の苦労はよく解るけど無理強いはいけない。後輩社員になんてましてだよ。誰にだって、そういう気分になれない時期だってあるだろう? ――僕みたいに」


古村さんは、途端に覇気をなくして柴主任にぽそりと謝った後、またなと手を振ってどこかへ行ってしまった。


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