柴犬主任の可愛い人
 
 
もう本日の撮影は終了したのか、柴主任はその場で寝転び、デジカメを頭の左横に置いてしまう。川では、桜色の唇だった真綾ちゃんがそれの色彩を欠いてしまっていて、慌てた亮さんがタオルで包んでいた。


私も、ちょっと冷えてきたかな。着替えたけど髪はまだ湿ってて、後ろで纏めてたものを解いた。乾かすなら最初からそうしとけば良かったなと後悔する。


「――髪、伸びましたね」


「そうですね。やっぱり結べるほうが落ち着きます」


てっきり眠ってしまったと思っていた柴主任は、寝転んだままこちらを見上げていた。この人は、なんだか自然にごろごろだらけるんだな。プライベートで偶然縁をもち、半分こ同盟を結び、月に幾度か伊呂波で約束なく出会う。なんだか一緒にバーベキューに来てしまったけど、同じ職場で働く部下の前で。


「急に短くした頃、いつもより元気がないと心配していました」


急にって、ただの上司に明日髪切ってくるねなんて報告はしないよ。


元カレから婚約破棄を言い渡された三日後、頭が痛くて重くて苦しくて、ベリーショートにしてと美容院に駆け込んだ。いつも担当してもらってる美容師さんは、私の切羽詰まった様子に気付いたのか色々宥めてくれたけど意思は固く、押し問答の末の折衷案としてショートボブに落ち着いた。今思えば美容師さんに感謝だ。私はショートが壊滅的に似合わない。翌日出社すると広瀬に笑われたものだ。


ちょんまげのような耳の高さで纏めたポニーテールは、まだ風で靡きもしない長さ。小型犬の尻尾に似てると思う。


「……今度は、ちゃんとお洒落のために美容院行きますよ?」


「それは良かった。短いのも似合ってて可愛いですけどね」


「はあっ!?」


「なんですか?」


「いえ。何も……」


短絡的散髪は、私の裏事情を知ってる柴主任なら、双方の時期を噛み合わせたんだろう。それ以上触れてくることはなかった。


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