柴犬主任の可愛い人
最後の唐揚げを咀嚼し終えたタイミングで主任が焼酎を注文したから、私もビールをお願いする。もちろんグラスで。最後までいい温度で飲むならグラスだよね。
焼酎をロックで嗜む主任は、普段会社の飲み会で見る姿とは違う。それはそれは美味しそうに、そこらの女子よりも可愛い二重の目を細め、それから一度陶酔するみたいに閉じて喉を通過させる。女子とは違うごつごつした手でグラスをテーブルに置き、名残惜しむように大きな爪でひと弾きしていった。
「ほらよ、シバケン」
「ありがと。――神田さんもどうぞ」
エイヒレを勧められ、それも素直に摘まませていただくと、主任は酔ってるのか片肘で頬杖をつき、傾いた顔はこちらに向けながら、ほにゃりふにゃりと表情を緩める。
職場でも時折お菓子をくれる主任は、皆がそれを食べているとき、孫を見つめる好好爺のように微笑むのだけど――なんだなんだ、今日はちょっと様子が違うぞ。場所が場所なだけに緩みが半端なかった。
「……シバケン、って、呼ばれてるんですね。主任は」
いつもとは違う様子に戸惑うのを誤魔化すように訊ねてみた。
「そのまんま、なんですけどね」
私が首を傾げると、ショックだとでもいうように主任は肩を大袈裟に落とした。なんだなんだ、こんな可愛いキャラだったか?
「……酷いです、神田さん……僕の名前知らなかったなんて」
「柴さんです」
「それいいですね。主任以外だとちょっと新鮮だ」
「シバケン。それはセクハラだ」
「あっ、いえそんなことは……」
「だってさ。亮ちゃん」
亮ちゃんとは店長さんのことである。やはり主任は酔ってるのか、間に入って気遣ってくれた店長さんに今度は頬杖をついたまま顔を向ける。ねだるように焼酎のおかわりを頼んだあと、“シバケン”の由来を教えてくれ。
「姓は柴、名は賢太、と申します」
映画の台詞のようなそれで、そういえば何かの書類で見かけたと思い出した。