蜜愛フラストレーション
「……また殴るようなことはしたくないんだよね」
そう言って彼は、先ほど自らの手で殴った私の頬に触れてくる。撫でられて口内がピリリと痛み、顔を顰めてしまう。
すぐ目の前に顔を近づけられ、ぞわりと慄く私に酷薄な笑みを浮かべる人への嫌悪感は増すばかり。
同意と無理やりでは訳が違う。まして、暴力をもって組み敷くような人には絶対に身体を許したくない。
他人の秘された顔など、うわべの付き合いでは分からない。それでも飲み仲間の同僚だった。
見破れなかった自身の愚かさ、裏切られたという気持ちが虚しさと怒りを呼び覚ます。
——だから、このまま負けたくない。……最後まで負けない、絶対に諦めないって優斗と誓ったから。
「って!」
彼を忌々しく睨みつけると、がむしゃらに暴れ始めた私に少々手こずったのだろう。
しかし、抵抗虚しく自由を奪われた身体は反転し、再び固い材質の上へと縫い止められた。
にたり、と不気味な一笑を浮かべた松木さんに向かって、私は最後の意地を見せるように叫んだ。
「こっ、これまで築いた信頼を、うら、裏切って……、人に暴力を振るって、手に入れたものに、価値なんてありますか……?
わ、私の心は動きませんからっ!絶対にっ……!」
震えそうな声を押し殺すため、拳をグッと握りながら強く言い切った。
それでも本心は隠し通せず、生理的な涙が、つぅと眦から流れていく。
誰か……ううん、優斗。お願いだから、助けて。虚勢を張るのももう限界だよ……。
すると、縫い止められていた手の力が緩み、私はおそるおそる顔を上げた。
くしゃりと顔を歪めた松木さんと目が合い、びくりと肩を揺らすと彼が苛立ちをみせる。
「じゃあ俺は、どうすりゃあいいんだよ……!」