蜜愛フラストレーション
直属ではないにしろ、社内でよく知る上司のひとり。もう社内で誰を信じて良いのか全く分からない。
愕然として虚ろな私の肩に手を置くと、少し距離を取った百合哉さんが不安に曇る私の顔を覗き込んで笑った。
「だいじょーぶ。こんな捕り物くらい朝飯前よ」
「そうですよ。専務のお守りの方がよほど大変ですから」
そう付け加えた秘書まで平然としているので、目を丸くしてしまう。
その瞬間、「そんなことより!」と急に声を上げた百合哉さんに驚かされる。
呆気に取られる私の顔を覗き込み、「大事な可愛い顔になんてこと……!クズ野郎っ……!」と憤っている。
腫れた頬は手当てされていて傷跡は晒していない。けれども、白いガーゼを貼った私の頬を凝視する彼は傷ついた顔をしている。
普段見せない表情と眼差しが痛々しくて。一応患者なのに、つい心配で彼の頭をポンポンと撫でて宥めようとする。
「……あ!ああー、むかつくーーー!」
そこでハッとした彼が慌てて切り替えたのが私に分かるほど、無理をしているのは明らか。
——まるで私を通して、何かを見ているような眼差しだったから。
「こうなったら殴り込み……」
「いけません。空木(うつぎ)様が怒りますよ」と一蹴した秘書さん。駄々をこねる彼の扱いが手慣れているらしい。
そこでまた言い合いを始めた彼ら。その傍らで私は、百合哉さんの顔を窺っていた。
「さっき出た、空木さんっていうのは貴方もよく知る人——課長の名前よ。珍しいでしょう?
それより、このあとどうなさるおつもりですか?」
紀村さんが困惑気味の私にそう教えてくれた。だが次の瞬間、尖りのある声色を百合哉さんに向け問い詰めようとする。