蜜愛フラストレーション
「ご理解って……ここは株主総会じゃ!」
「だから、緊急役員会議だと予め伝えてあるだろう?」
なおも言い募る専務に対し、社長は淡々と切り捨てた。対照的なその様子がふたりの風格を示している。
トップ二名の対立により、殺伐とした空気の役員会議室。そこへ課長が間に入るように話し始めた。
「これより社長に代わりまして、私どもがご説明申し上げます。
この度の五十嵐専務への退任要求につきましては、専務が刑法に抵触する行為をされていたことが理由でございます。
有り体に申し上げますと、社の信用を著しく失墜し、」
「ふざけるなっ!何の証拠があって!」
専務の怒りの火の玉がこちら目がけて飛んできたが、俺たちは無反応でその攻撃をかわす。
「恐れ入りますが、証拠がなければ名誉毀損になることくらい、若輩者の私どもも重々承知しております。
皆さまの貴重なお時間を頂戴しているのですから、事前に入手した情報を精査し、証拠固めをして臨んでおります。そのことはご承知下さい。
まずは最後まで私の話をご静聴頂きますようお願い申し上げます」
課長は瞬時に表情を消し、専務に怜悧な視線を向けた。丁寧に諭しているようで釘をさしたのだ。
それを悟った周囲も、先ほどから堂々巡りの状態に怪訝な顔をし始め、渋々ながらも専務は席に着いた。
「では再開させて頂きます。まずは1年前の大阪支社のビル移転工事です。この際、事前に入札価格を決める談合が行われていました。
結果、入札を決めたのはS開発。これは大阪に本社を置く、五十嵐専務の親類が経営する会社だと確認が取れています。
当時ICレコーダーで録音されていたものと、談合に関する書類を証拠として揃えてありますので。皆さま、正面のスクリーンをご覧下さい」
そう言って課長が話を区切ると、壇上隅で待機中だった紀村さんがパソコンを操作した。
次の瞬間、俺たちの背後にある役員室のスクリーンに談合に関する書類が映し出された。
さらに当時の会話の一部分を切り取ったものまで、まるでBGMのように流れだす。
すぐにふたりの男性の声が聞こえてきて。その会話では、明らかにひとりの男性がもう一方の男性に脅されているのが分かる。
話の内容を聞いた途端、この場でただひとり顔を顰めた者がいる。その人物こそ、会話の中で男性を脅していた犯人だ。
「この件の担当責任者は本社の総務部長。すなわち、専務のかつての直属の部下……でしたね?」
会話の内容と動かぬ証拠を提示され、室内には動揺が走る。そこで課長は、押し黙る専務に敢えて確認を取った。
――“総務部長に脅しをかけてるヤツはアンタだろ?”と、言外に告げたのだ。