蜜愛フラストレーション


その意味を汲み取ったのか、「……なんの、証拠が」と言った専務の視線が泳ぐ。

「先ほど申し上げましたが、証拠ならすべて揃えております。あ、証言者もおりますよ?」

さらりと笑みを零す課長に、眉をつり上げている専務。だが、動揺は隠せていない。

先ほどの録音された音声の中で、専務に脅されていたのは専務派に属する総務部長だった。

自分が目をかけてきた総務部長が、よもや自分を売るとは思わなかったのだろう。

しかし、俺たちの追及に言い逃れ出来ないと悟ったのか、総務部長は御身可愛さでこれらを献上した。

専務とのやり取りを録音し、重要なデータや書類も手元に残していたのだから、総務部長もある種のたぬきだが。

しかも、俺たちに情報提供してから、今までその事実を告げていない。この時点で専務を慕っていないのが明白だ。

「ああ、言い忘れましたが。先ほど以外にも、まだICレコーダーには色々と録音されていましたので」

壇上から課長が専務に向かって告げると、室内が一瞬ざわめき立つ。

思わぬところから証拠を集められたと分かるや否や、専務は強硬な態度が弛み始めていた。


「別件ですが、大阪支社に専務のご令嬢が転勤した後、新たな取引先の取引金額が激増しておりました。
調べましたところ、その企業は専務の姪御が代表を務めるペーパーカンパニーだと判明しました。
会社の設立年月は、専務のご令嬢が転勤した直後。主要取引先に至っては大阪支社だけ。
代表者は専務の姪御さんでしたが、ご結婚により名字が変わっていたので、この事実にたどり着くまでに時間を要しましたが、裏はキッチリ取れております。
このペーパーカンパニーを通して、大阪支社が開発した新商品のパッケージ・デザインを、専務の指示で口利きのデザイナーに発注。その紹介料など、多額のキックバックを得ていました」

マイクを通して静寂に響く課長の声。そこで課長の視線は、再び気色の悪い専務に向いた。

「当社にはデザイナーが在籍する中、なぜ都内に事務所を抱えるデザイナーなのでしょうか?
現場ではそのことに随分と不満も出ていましたが、この件が専務の一存によるトップダウンだったとは知らないようですね。
唯一このことを知っていたのは、大阪支社長。支社長も確か、専務のご後輩でしたね……?」

弧を描いて笑う課長ほど薄気味悪いものはない。……この空木さんを怒らせると厄介なのだ。

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