蜜愛フラストレーション

暫くふたりで他愛ないやり取りを重ねていたものの、少し疲れたので横になろうとスケッチブックとペンを手前のテーブルに置く。

入院によって体力がなくなったのか、それとも薬の副作用で眠気がひどいのか分からない。

そうして立ち上がろうとしたら、「萌ちゃん」と呼ばれたので百合哉さんに目を向ける。

ポンポン、と自らの膝上を叩くので訝しげな視線を返すが、にっこり笑う彼は意に介さず。

百合哉さんのお店で眠ってしまうと、優斗か百合哉さんのどちらかが膝枕をしてくれたことはあった。

きっと男性に恐怖を覚えているだろう私を気遣い、わざとふざけてくれるのだと思う。

――自分は絶対に害をなさないよ、と言外に告げながら。

瞼が重くなっていた私は根負けしたこともあり、百合哉さんの肩を借りて凭れることにした。

――私だって百合哉さんのことは信頼してる、と返したくて。


昨日の夜は薬を飲んでも気分が沈んでいたので眠りが浅かったのに、今は少し安心したせいかすぐに眠気が襲ってきた。

うつらうつら、としていると、果たしてどれくらい経ったのだろうか。

「……それ、俺の役割だよな?」

「せっかく眠れた萌ちゃんを起こすことになるけど、いいのか?」

チッ、とやけに恨めしげな舌打ちが微睡みの中で聞こえてきた。

起きたい気持ちとは裏腹に重い瞼が全く開かない。それどころか、どんどん意識は薄くなっていく。

やがて心地よいふたつの声の応酬も聞こえなくなり、真っ白な世界に向かっていった――。


どれほど眠っていたのだろう。やけに目覚めの悪さを感じながら、重い瞼を何度か往復させてなんとか目覚めようとする。

「あ、起きた?」

ついにはっきり目が開くと、視線の先にはいつもの低くて爽やかな声の優斗が。その瞬間、唖然として目を丸くするばかり。

百合哉さんに肩を借り眠っている間にその相手は優斗となり、膝枕へと変わっていた。そのうえ、百合哉さんの姿は辺りを一瞥しても気配すら感じられない。

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