蜜愛フラストレーション

多忙の百合哉さんにお見舞いに来てくれたお礼も言えないまま爆睡するなんて。思わず溜め息が漏れてしまう。

寝ぼけ眼で反省する私を見下ろしながら、穏やかに笑いかけてくれる優斗。彼だって仕事を抜けて来てくれたはずなのに。

“ご・め・ん・ね”

傷によって唇は思い通りに動かず、声も戻らない今、必死に口パクで言葉を伝えようとする。

そんな気持ちが届いた瞬間、そこで彼は遮るように首を横に振った。

「謝るのは俺の方だ。昨日言っただろ? 迷惑なわけないし、無理もしてないよ。ただ俺が萌に会いたかった、それだけ」

恐怖心に苛まれる度、どうにか塞き止めてきた涙。それもあっさりと決壊していく。

不安定な心が求め、ただシンプルに会いたいのは優斗だけ。――この感情が強くなっているみたい。

恐る恐る彼の大きな手に触れる。すると、あったかくて節々は骨ばっていて。もう離れたくない、その言葉の代わりにキュッと握った。


そうしてこちらに顔を向け、私をジッと見下ろしている彼と暫し見つめ合う。

言葉がないもどかしさが視界を潤ませる。その涙は頬を伝い零れ落ちていく。

もう泣かない、前を向くと決めたのに。悔しさについ、キュッと唇を噛み締めてしまう。

「触っても良い?」

その刹那、優斗のこの言葉に対して反射的に頷き返していた。

今まで握っていた手の力を緩めると、彼の指先が私の頬にそっと触れようとしてきた。

しかし、その瞬間、顔に近づいてきた大きな手に恐怖感が沸き立ち、ギュッと固く目を閉じてしまった。

すぐにハッと我に返った私は、すぐ正面にある優斗の顔をこわごわと窺い見た。

視線が重なると、彼は「ごめん、怖かったな」と言って優しい笑みを浮かべている。

いても経ってもいられず、身体を起こした私はそのまま彼の胸に縋りつくように飛び込んだ。

そうしてジャケットをキュッと掴むと、何度も声を発しようとする。

けれども、想いは喉の奥で閉じ込められたまま。声は吐息となり空気に掻き消されていった。

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