bitter and sweet-主任と主任とそれから、私-
残っていた仕事を終わらせたのは、夕方6時になる頃だった。
初夏の夕方はまだ明るくて、時間の感覚を錯覚しそうになる。
私がパソコンをシャットダウンさせ、帰宅準備をしていると、本郷主任が疲れた肩をほぐすように首を回した。
「帰るのか?」
コーヒーを片付けようと、給湯室へ向かう私の背中に本郷主任の声がかかる。
「はい、これ、片付けたら」
見向きもせずに言うと、
「安藤、飯食いにいくぞ」
急に、やっと意識の奥底に仕舞い込んだはずの本郷主任との抱擁が頭に蘇ってくる。
本郷主任からのご飯のお誘いなんて、いつものことなのに今日はいつもと違う本郷主任の雰囲気も相まってどぎまぎしてしまい、持っていたコーヒーカップを落としそうになる。
「いや、でも・・・」
そう言って断ろうとする私の返事なんて訊きもせず、本郷主任はパソコンの画面をにらみながら
「それ片付けたら、俺ももうすぐ終わるから、待ってろ」
有無も言わさない口調でそう言って、ものすごい勢いでタイピングを再開させた。