ベビーフェイスと甘い嘘
「うわっ、面倒なヤツが来た」
入り口にちらりと目を向けながら、九嶋くんは本当に迷惑そうな顔をした。いつもニコニコとしている彼がここまで嫌がるのも珍しい。
そして声だけで誰が来たのか分かってしまっていた私まで……入り口に顔を向けずに、九嶋くんと目を合わせたままで苦笑いをした。
報告だけしてすぐに帰ればよかった。たぶんこの男の……直喜の登場で帰宅時間が間違いなく伸びてしまった。
「ねーさん気を付けてね。酔っ払ったときのコイツって、普段の10倍めんどくさいから」
さっきまでの気まずさなんて忘れてしまったように、九嶋くんは笑いながら私にそう言った。
「めんどくさいって……ひどいなー智晶さん」
九嶋くんの言葉にちょっと口を尖らせながら、店内に直喜が入って来た。今日は前に『still』に行った時のようにスーツを着ている。
格好はカッチリとしているくせに、足元は何だかふわふわと心許ない感じだった。……どんだけ飲んだのよ。
「ほんとに茜さん?何で??どうしてこんな時間にいるの?……あっ!ひょっとして、今俺が会いたいなーって思ってたの分かっちゃった?」
「これって……運命だよね!!」
ダメだ。完全な酔っぱらいだ……
そう言えば酔った直喜を見るのは初めてだ。酔うとよく喋るタイプなのだろうか。ニコニコ笑いながら、次々と訳の分からないことを早口で言いながら直喜は私に近寄って来た。