ベビーフェイスと甘い嘘

「智晶ちゃん……私、勇喜と結婚したんだよ。知ってる……よね?チヒロちゃん達、結婚式に呼んだのにギリギリまで音沙汰無くて……いきなり電話で『仕事があるから式には出られない』って言うんだもん。ひどいでしょ?……結婚式、智晶ちゃんにも来てもらいたかったな」


『チヒロ』さんって、誰なんだろう。

でもその名前が出る度に九嶋くんの表情が強張って、だんだんと青ざめていくのがはっきりと分かった。


指先が少しだけ震えている。それでもぐっ、と唇を噛み締めてから、吐き出すように言った。


「有名人様は目立っちゃうから、こんな田舎の田舎者同士の結婚式になんて来ないよ。……身内じゃないんだから。あいつ、もっと無神経なヤツだと思ってたけど、常識だけはあったんだね」


「あぁ、そうだ。あんたもさ、やっと結婚できて良かったよね。……これでもう誰も傷つかずに済む」


今……会話をしているこの人は一体誰なんだろう。

私の知っている九嶋くんは、気遣いができて、とても優しい人で……こんなに人を傷つけるような冷たい言葉を吐き出すような人じゃないのに。


それまで何を言われても笑顔で話しかけていた奈緒美ちゃんが、誰も傷つかずに済むという言葉を聞いて、少しだけ悲しげに顔を歪めた。
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