ベビーフェイスと甘い嘘

「歩き方、おかしかったから。足……馴れてないだけかなって思ってたけど、右足だけ痛そうにしてたから」


バレバレだったのね……


翔はむにゃむにゃとしばらく声にならない言葉を呟いていたけど、直喜に抱っこされたまま、すやすやと眠ってしまった。


「カケル、やっぱ眠かったんだね」


「うん。でも良かった。こっち側もお店閉まっちゃってたから。出店って花火が終わると、ほとんど終わっちゃうのね」


奈緒美ちゃんが九嶋くんに話しかけたから、翔が出店が全部終わってしまったことに気がつかずに済んだのだ。


だからお店に行けなかったのが却って良かった。


そう思ったけど、奈緒美ちゃんと九嶋くんの悲しげな表情を思い出したら、その事を『良かった』と思ってしまったなんてとても口には出せなかった。


九嶋くんの顔……真っ青だったけど、大丈夫だったかな。確かヤスさんの所に行くって言ってたけど。


「ねぇ、直喜」
「茜さん」


二人で同時に話しかけてしまった。


「……あ、先にどうぞ」

「いいよ、茜さんが先で」

普通に話そうと思ったけど、やっぱり気まずい。


だって……こうして一緒にいるだけで、どうしてもキスをされたあの夜の事を思い出しちゃって、まともに目を合わせることもできないんだもの。




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