ベビーフェイスと甘い嘘
私達がテントまでたどり着くと、「すみません。今日はもう終わったんで……」と後ろから聞き覚えのある声がした。
「……って、あれ?直喜か。それと……えっ、と……」
私達に声をかけたのはヤスさんだった。
『still』に行ったのは一回だけだし、私のことは覚えていないかもしれないけど、一応「お久しぶりです」と挨拶をした。
「俺『still』に連れて行ったでしょ。ヤスさん、覚えてない?」
直喜の言葉にヤスさんが思い出したようにあぁ、と言った。だけどその視線は私と直喜を行ったり来たりして落ち着きがなかった。
「この前は親切にしていただいたのに、きちんとお礼も言えなくてすみませんでした。ハンカチもそのまま頂いてしまって……」
「あぁ……いえっ、あれは誰も使ってないものだったから気にしないでください。あのっ……あの後店に来られなかったから、どうしてるのかなって思ってたんです……」
どうしたんだろう。『still』で話をした時と比べて、ずいぶん歯切れが悪い。
「ちょっとどうしたのヤスさん?……茜さんがあんまり綺麗だから、緊張してんの?」
直喜はそう言うとニヤリと笑った。
……そんなに『still』に行った時と違うのかな。今日は着せ替え人形のようなもので、普段の私とは全く違う。緊張されてもそれはそれで複雑な気持ちなんですけど。
「いや……それもあるけど、お前……」
「そーだ、智晶さん来てたでしょ。……大丈夫だった?」
何か言いかけたヤスさんの言葉を遮って、直喜が話した。