ベビーフェイスと甘い嘘

「でも、その人のことを見て思ってたのはそれだけ。気にはなってたけど、声をかけたりとか、自分がどうこうするっていう気持ちは全く無かった」


そこまで聞いて、とうとう耐えきれなくて聞いてしまった。


「自分がどうこうする気持ちが無い?じゃあ、結婚式の時は?この前の夜の時のことは?直喜は、私に興味があるだけだって言ってたよね。……私の事、どう思ってるの?」


問いただす声が震えた。

私……どうして、こんなに動揺してるんだろう。「興味があるだけだから」って答えられても、間違いなく傷つくくせに。


「興味なんかじゃない。……もうそんな感情はないよ」


直喜は静かに首を振った。


「……茜さんさ、5年前、そこで……裏口で一人で泣いてたよね。仕事を辞めたくないって言って。……結婚式の日も、『still』に行った時も、この前も。茜さんはずっと泣いてるよね」


「見て……たの?」


誰もいないと思っていた。

だって、誰にも知られたく無かったから。


たった一度だけ吐き出した弱音を、涙を……まさか、直喜に見られていたなんて。


「そこに俺がいたのは、ほんとうに偶然だったんだ。でも、あの日に見た涙はずっと心の底に引っ掛かってた。……泣いていたその人の名前は分からなくても…………ずっと」


直喜はそう言って、動揺したままの私の手を引いて歩き出した。
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