ベビーフェイスと甘い嘘

「茜ちゃんお疲れ様。待ってたよー。お昼ご飯くらい食べてくでしょ?ほら、上がって」


有無を言わさぬ強引さだ。さすが芽依。
ほらほら、と急かすように家の中へ通される時、玄関に見覚えのある靴が置かれてあるのが目に止まった。


リビングへと足を踏み入れる。やっぱり、私の予想は間違っていなかった。

「茜、久しぶり」

「うん。久しぶり、お母さん。元気だった?」


そこに居たのは母だった。



***

私が高校3年の時、父が突然亡くなった。末期の胃癌で、症状が出た時にはもう手遅れだった。


専業主婦だった母は多分途方に暮れたはずだ。私は母に言われるまま進学を止めて地元のインテリアショップに就職した。


母は昔から自分の意見が常に正しいと思って、子どもを型に嵌めるような考えをする人だった。


だけど彼女が正しいと思った型は私にはいつも合わず、窮屈な思いをしてきた。


芽依はそんな母の性格を理解しつつ、持ち前の器用さと適当さで型をうまくかわしながら生きてきた。


私にもそんな器用さがあれば、母とこんなに気まずくならなかったのかもしれない。


地元を離れて司書の職に就きたいと言った時、母は猛反対した。けれど、結局母の反対を押しきって司書になったのだ。


それ以来、ずっと母とは気まずいままだ。

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