ベビーフェイスと甘い嘘

「はぁ?」

予想外の言葉に、思わず間の抜けた声が出た。


「ですから、社員登用の試験を受けませんかって聞いてるんです」


「ど……どうして?」


てっきり、この前の事情を聞かれると思っていたのに。


訳が分からず混乱する私に、店長はゆっくりと言い聞かせるように説明しはじめた。


「今から話すことは私の勝手な想像ですし、柏谷さんにとって余計な事かもしれないと言うのは百も承知でお話します」


「この前の事は、客観的に見て、柏谷さん一人だけの力じゃ解決できない点が沢山あると思いました。今は妹さんの所に居るって言いましたけど、あれからご主人とは話し合ったんですか?」


その言葉に私は首を振った。


「いいえ。熱が下がりきらなかったので起き上がるのも辛くて。芽依……妹が、夫とは二人きりで会わないほうがいいと言ったのもありますけど」


『しばらく家に帰りません』とメールを送信した後、私はまた熱が上がって寝込んでしまっていた。


弱った私が頼るのは芽依しかいないと修吾は思っているから、きっとここに来るはずだ、と芽依は予想していた。だけど、結局彼は芽依の家には現れなかった。


着信も無く、送ったメールにすら一言の返信も無い。


何の反応も無かったのが、かえって不気味だった。
< 302 / 620 >

この作品をシェア

pagetop