ベビーフェイスと甘い嘘

「賢明な判断ですね。ま、あの妹さんなら、もの凄い勢いで追い返しそうですけど」


店に突撃された時の事を思い出したのだろう。ちょっとだけ顔をしかめながら話した店長に、思わず苦笑いを返してしまった。


「まぁ……妹さんの事は置いといて。私は店長ですから、立場上あなたの経歴も給料も知ってます。これから前の職に戻るとしても、他の職を探すにしても、女性一人で子どもを育てていくのは大変でしょう?」


「そういう時の選択肢は、多いほうがいい」


『勝手な想像』『ご主人とは、話し合ったんですか?』『女性一人で子どもを育てていく』『選択肢は多いほうがいい』


そこまで聞いて、やっとこの人が本当は何を言いたいのかが理解できた。


「離婚したとしても……ってことですよね?だから社員になれって言ってくれたんですか?確かに、店長の考えていることは勝手な想像なんかじゃないです。ずっと前から離婚は考えてました。話し合いが拗れて……こんな事になってしまったんです」


「離婚してと……言わせてももらえませんでした。『お前が一人で生きていける訳がない。黙って俺の言うことを聞いてればいいんだ』って……そう言われて……」


『叩かれました』とはどうしても口にできなかった。


自分が情けなくてため息が出そうだ。


翔と二人で生きていくことについて何も考えていなかった訳じゃない。だけど司書は空きが出ないと雇用には繋がらないし、紹介してもらえるコネも無いので、再就職は難しかった。


だけど、いきなりコンビニの社員になれだなんて……。


たぶん、この人にとっては何のメリットも無いことだし。


そう思ったらつい、「同情ですか?」という言葉が口から出て来てしまっていた。
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