ベビーフェイスと甘い嘘

九嶋くんも店長も、たぶん私が一人で歩いて帰っちゃうだろうと分かってて、本気で心配してくれていたんだ……


「よろしくお願いします」


「分かればよろしい」



アーケードの中を歩いて帰るとマンションまでは近いのに、車で大通りを通って帰ろうとすると大きく回り道をしないといけなくなるので、歩くのと同じくらいか……朝夕の通勤時間にかかると下手したら車のほうが遅くなってしまう。


昼過ぎの道路は空いてて良かった……なんて思いながら通りを走る車の流れをぼんやりと眺めていると、「どうぞ」と冷却シートを渡された。


「これって……」

「この間の残り。俺、あんまり風邪とか引かないから取っといても使わないだろうなーって思ってたんだけど。案外すぐに出番が来たね」

「……悪かったわね」


こっちだって、好きで叩かれてる訳じゃないんだけど……


「ごめんごめん。冗談だってば」


ムッとした私の様子に気がついたのか、九嶋くんはすぐに謝ってきたけど、その口許はニヤニヤと笑っていた。


そんな会話をしているうちに、気がつくと車はマンションに到着していた。

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