ベビーフェイスと甘い嘘
「コンビニを辞めた後、夜に眠れなくなっている自分に気がついたんだ」
「日中はみんな起きてるから、苦しくなっても気がついてもらえるでしょ?そう思えるからなんとか家でも眠れたんだけど……夜に一人で部屋にいるとどうしようもなく不安だった。だからヤスさんに頼み込んで『still』で歌うようになったんだ」
「しばらくして、夜勤のシフトが空くからまた働かないかって言われてコンビニに戻った。夜勤で戻れたのは偶然なんだけど、コンビニなら24時間開いてるから、何となく誰かと繋がっていられるようで安心できたんだ。……ねーさんの言う通りだよ」
あの深い海の底のような空間で、彼は全ての傷を抱えたままで歌っていたんだ……
歌うことでまた傷つくと分かっていても、それでも歌いたくて。
あの哀しい歌声は、九嶋くんの心の痛みそのものだったんだ。
「そっか……やっと分かった。だから、九嶋くんの歌声は泣いているみたいに切なく聞こえるのね。……だって、あなたは心の中ではずっと泣いていたから。……そうでしょう?」
九嶋くんに、私が涙を流した訳を聞かれた時、
あの時は、涙を見られたのが恥ずかしくて、九嶋くんの歌にシンパシーを感じたと嘘をついた。
だけど、今思うと共鳴した部分も確かにあったのだ。
……私も九嶋くんと同じだから。
仕事を辞めたことで大切な居場所を失って、愛して信じた人に裏切られて……ずっと心の中で泣いていたから。
「そうだよ」
「ねーさんだって、ずっとああやって泣いてたんでしょ?……俺とねーさんは似てるね。深い傷を負って、塞がらなくて、もがいてきた所も」
「朝にも言ったよね?心の傷はどんなにごまかそうとしても隠せないよって」
「その傷口はさ、じくじくと痛まない?喉が詰まったように息が出来ないくらい苦しくなることってなかった?…………あったよね」