ベビーフェイスと甘い嘘

とうとう鍵盤に指を置くことをイメージしただけでこわばり出すその指を見たある医師から、一つの病名を告げられた。



ーー職業性ジストニア



イップスとも呼ばれるその病気は、同じ動作を反復的に長年繰り返すことで、脳の神経になんらかの異常が生まれてしまい……

こわばりや、震え、不随意運動などの症状が現れ、酷い時には鍵盤に触れる事さえもできなくなってしまうらしい。



「動かないのは指だけなんだろ?そんなに暇なら店を手伝え」


全てのスケジュールをキャンセルして自宅に閉じ籠っていた俺に、どこから聞き付けたのか勇喜がこんな電話を寄越してきた。


こうして俺は約7年ぶりに羽浦市へと戻って来た。


俺はまた離れに住んで、店で暫くの間働かせてもらうことになった。


離れは俺が居ない間に定期的に勇喜が手入れをしてくれていたので、またすぐに住む事ができたのはありがたかった。


もう実家には奈緒ちゃんも住んでいる。さすがに新婚夫婦がいる家に入るほど、図々しくもなれなかった。


それに、もちろん俺は実家に戻っても歓迎される立場でもないし、父とは相変わらずぎくしゃくしたままだ。
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