ベビーフェイスと甘い嘘

そっか。彼女は奈緒ちゃんと入れ替わりで辞めた……


あれは何年前だったかな……


短期留学の準備でこっちに戻って来た時、奈緒ちゃんの職場の市立図書館へと何度か行った事があった。


その時、小柄なのに大きなお腹で一生懸命に働いている司書の人がいた。


あの時の彼女は、俺が昔憧れていた『家族』という形のしあわせを、全てその手の中に持っているように見えた。


ある日見かけた彼女は、図書館の裏手の遊歩道のベンチに座り、大きな花束を抱えたまま涙を流していた。


花束を抱えている手とは逆の手で優しくお腹を撫でながらも、「……辞めたくなかった」と悔しそうに何度も呟いて。


その日以降、彼女を見かける事は無かった。


ーーそれから今日まで、彼女の存在なんて忘れていたけれど……


俺の想像の中の彼女は、家族としあわせに暮らしているはずなのに……


そうじゃなきゃいけないのに、何でそんな目をしてるんだ?


「はい。調子に乗って飲み過ぎちゃったみたいです……」



調子に乗って飲み過ぎた?


酔っている?



…………嘘だ。
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