ベビーフェイスと甘い嘘
……こんなに近くにいたなんて。
結婚式のあの日以来、ずっとアカネさんの事が気になっていた。
夜が明けて……確かにこの腕に抱き締めていたはずの温もりが消えていたことに気がついた時、一晩限りだと割りきって誘った筈なのに、何故か寂しさを感じてしまっていた。
彼女は、俺に何も言わずに出ていった。その意味が分からないほど鈍感じゃない。
もう二度と会わないと、そう言われたようなものなのに……
また会えない事を残念だと思うなんて、どうかしてる。
そう思いながらも、子どものように声をあげて泣いていたあの日の姿が、ずっと頭から離れなかった。
***
「お願い……そばにいて……お願い……」
弱々しい声で彼女は懇願していた。
その目はギュッと固く閉じられている。
……眠っている人に返事って……しちゃいけないんだっけ?
泣きながら眠りに落ちていったから、この言葉が俺に向かって話した言葉じゃないのは分かっていた。
だけど、涙声で必死に言葉を繋いでいる姿がいじらしくて、何か言ってあげたくなったんだ。
泣き腫らして縁まで赤くなった瞳からまた一粒、涙がほろりと溢れ落ちる。
「……大丈夫。そばにいるよ」
彼女の柔らかい髪をそっと撫でながら声をかけた。
今夜だけは……あなたがそばにいて欲しい人の代わりに、ここにいてあげるよ。