ベビーフェイスと甘い嘘
結構な量を飲まされたから帰り道を歩く足取りはふわふわとしていたけど、頭だけは妙に冷めきっていた。
ふと茜さんの泣き顔が頭の中に浮かぶ。
『宇佐美』に拘る自分と『柏谷』の名字になる事を自ら決めたはずなのに、哀しみの涙を流し続けている茜さん。
俺たちは、形ばかりの『家族』にすがっている似た者同士なのかもしれない。
もし今……思いのままに指が動いたなら……何も考えずにピアノを弾くことに没頭できたなら……こんなモヤモヤとした感情もすっきりするはずなのに。
どうして『still』ではあんなに自由に指が動いたんだろう。
茜さんに会いたい……
そう思いながらサンキューマートの前を通りかかった時、智晶さんと話をしている茜さんを見つけた。
運命なんて言葉は、生まれてから一度も信じた事は無かったけれど、ちょっとだけ感じてしまったのも仕方ないと思う。
酔ったふりをして近づいたけど、茜さんに言った事は真実だった。
あなたに会いたいと思っていたのも、会えて嬉しかったのも、運命を感じたのも全て。
茜さんも呆れはするだろうけど、酔っぱらいの戯れ言なら『しょうがないな』って相手をしてくれるような気がしたから。
そんな追い詰められた時にしか思いきって他人(ヒト)に甘えられない自分は、どうやら智晶さん曰く『めんどくさい奴』らしい。