ベビーフェイスと甘い嘘

茜さんは、嘘つきだ。


結婚式のあの日に、しあわせから逃げたいと思った理由(わけ)をそのままにして、今も『しあわせ』だって嘘をついて生きている。


その心の中にも踏み込ませてもらえない。


自分にも興味を持ってもらえない。


それとも、本当の自分を隠したままで自分を理解してもらおうなんて虫が良すぎたのか?



「俺は茜さんの事をちゃんと見てるよ。茜さんは俺のことあんまり知らないよね」


つい、責めるような言葉が口から出てしまう。


俺は、あなたを苦しみから救いたい。涙をとめたい。


確かな思いなのに、あなたの心に近づく方法が分からない。


どうしたら、俺に興味を持ってもらえるんだろう……



「翔……子どもがね、今一人だから、兄弟がいたらいいなって言ってて……だからね、奈緒美ちゃんが双子だって聞いたら、なんだか羨ましくなっちゃった」


「妹に赤ちゃんができてね。今6ヵ月なんだけど、『翔の家には赤ちゃんできないのー?』なんて聞かれちゃったのよね」


「ほんとに困っちゃった。さすがにそればっかりは翔に約束できないもんねぇ……」


もどかしい心に、茜さんの言葉が次々と突き刺さっていく。
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