ベビーフェイスと甘い嘘
途端に智晶さんは、苦々しい表情でチッと部屋中に響くような舌打ちをした。
「俺だってお前の顔なんか見たくなかったよ。……だけど、ねーさんがお前の名前を呼んだんだ。……泣きそうな顔で、でも泣けないまま眠りに落ちて……言っちゃいけない事みたいに小さな声で、一言だけ『なおき』って。…………あんな声聞いたら、無視できねーよ」
「お前に5分だけ時間をやる……鍵はかけなくていいから、5分経ったら出て行け」
それだけ言うと、部屋を出て行ってしまった。
そのまま後ろを振り返る事無く智晶さんは玄関へと向かい、俺は一人部屋に取り残された。
『すぐに出て行け。もう茜さんの前に現れるな』
たぶん、そう言いたかったはずだ。
それでも5分だけ時間をくれた。
心の中でありがとうと礼を言って、茜さんの側へと戻る。
「……茜さん」
「…………茜さん…………茜さん」
起こしちゃいけないと思いながらも、気がついたら必死に呼び掛けてしまっていた。
何度か呼び掛けると、茜さんはうっすらと目を開けた。
だけどその目は熱にうかされて潤んでいて、ぼんやりとしか見えていないようだった。