ベビーフェイスと甘い嘘

目の前で起こっている光景なのに、まるでスローモーションのようにゆっくりと源さんが視界から消えていく。



ーーゴツッ。



そして何か柔らかい物を壁に叩きつけたような、鈍く、くぐもった音が耳に響いた。


気がついた時には、源さんは仰向けの状態で床に倒れていた。



「……源さんっ!!!」



……大変だ。助けないと!



驚いて抱き起こそうとして、床にしゃがみこんだ瞬間ーー





「動かすな!!」



突然真後ろから声が聞こえて、源さんに触れようとしていた掌ごと身体がビクッと跳ねる。


今まで聞いた事が無いくらいの大声を上げて、店長がスタッフルームから飛び出して来ていた。



そのまま私の手を制して、店長は源さんの傍らにしゃがみこんだ。


「救急車を呼んで下さい」


私の方を見ること無くそう言うと、源さんに応急の対応をしていく。


その慣れた様子を見て、あぁ……この人は本当に医者だったんだ……とぼんやりと思い返していた。

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