ベビーフェイスと甘い嘘
「……お先に失礼します」
「……お疲れさまでした」
私の様子がおかしいと気がついているはずだけど、唯ちゃんは何も聞いてはこなかった。
ふらつきそうになる足に力を入れて、店の外へと踏み出した。
マンションまでは暫く歩かなきゃいけないけれど、ゆっくり歩いているうちに、じきに心臓の鼓動も治まるはずだ。
そう思って歩き始めた瞬間に、後ろから誰かに肩をポンと叩かれた。
「……ひっ」
急に肩に触れた手の感触に、ただでさえドクドクと鳴り響いていた心臓がさらにドクン!と大きく音を立てて跳ねる。
驚きのあまり、がくっと一気に足の力が抜けて、その場にペタンと尻餅をついてしまっていた。
「……えっ。ちょ、ちょっと」
頭の上から驚いたような、焦ったような声が聞こえる。
ずっと聞きたいと思っていた、柔らかなその声。
そろそろと頭を上げると、目の前に藍色のエプロンを着けた直喜が立っていた。