ベビーフェイスと甘い嘘

「…………茜さん。後でいくらでも怒っていいから、暴れないでね」


俯く耳元でいきなり声がしたかと思うと、身体がふわりと浮き上がった。


私の肩と両足を支えている掌と腕の温もり。


目の前には、藍色のエプロンの上に紅い糸で刺繍された『ウサミ』の文字。


急に身体が浮いたのは、直喜の胸元に頭を預けながら包み込まれるように抱き上げられているからだと気がつく。


……暴れるどころじゃない。


身動き一つできない。



「ちゃんと食べてる?……痩せたよね」


カチカチに固まってしまった体に染み込むように、優しく柔らかな声が降りそそぐ。



「……痩せてないよ」


とっさにそう返したけど、本当は直喜の言った通りだった。


灯さんに修吾との子どもを妊娠したと告げられたあの日から、夜はまともに眠れず食欲は落ち、気がついたら体重も減っていた。


修吾と灯さんとの事に決着がついて、ようやく最近少しずつ食欲が戻ってきたところだ。


だけど悲しいかな、ちょっと痩せたぐらいじゃ見た目は全然変わらなくて、周りの人達は誰も私が痩せた事には気がついていなかったのだけど……
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