切ないの欠片~無意識のため息~
割り切りましょう、って。私でよかったら、あなたの相手になるわ、って。
仕事が忙しくて長い間男日照りだった私と、愛する妻とは体を重ねられない男のリハビリに、と。
彼は最初困惑した顔をしたけれど、やがてハッキリと頷いて、連絡先を交換したのだ。
以来、私は彼と寝ている。
そこに問題はないはずだった。
適度なスポーツとして、人肌のぬくもりがホルモンにも良い影響を与え、私の毎日は飛躍的に向上した。笑顔が増えて仕事もうまく行きだし、しかも結婚話をされる心配のない相手だったのだ。子供が出来る心配もない。彼は相変わらず妻を愛していて、私と擬似恋愛をするつもりもなさそうだった。妻を私に重ねてしまいそうな時は、抱かずに帰る。今日はあなたにも妻にも失礼なことになりそうだから、そう言って。
私はそんな彼を好ましく思っていたし、率直に話してくれるのも気に入っていた。
会って、寝て、終わったら休んで、午前5時に帰る。
そうすれば彼の妻が寝ている間だけの不在に出来るのだ。それも二人で相談して決めたのだった。
だけど最近、私はその午前5時がくるのを恐れている───────────
「じゃあ、また」
彼がそう言って、私を振り返った。
「はい。気をつけて帰って」
私もそう言って毛布の下から出した手をゆっくりと振る。もう興味はないの、そんな態度で。多分そうしたほうがいいだろうって思ったから。