やさしい恋のはじめかた
「まだまだ伸ばし足りないから、今日もカットだけ。この際だから、長い髪だからこそできるアレンジとか、いっぱいやってみたいの。どうせもう30だとか思わないでよ? 桜汰くんだって普通にもう32歳なんだから」
「はいはい。女子っていっつもアラサーとかアラフォーとか、そういうのばっか気にすんだよなー。年齢に合った髪型って確かにあるけど、そこまで気にする必要なくない?」
「気にするよっ。桜汰くんが髪に全然カラー入れさせてくれないから、老化現象は自力で隠すしかないんだもん。長くないと隠しきれないよ、そんなの」
「だから里歩子なら白髪も綺麗だって」
「はっきり言うなっ」
「ぶはは」
そうして若干遊ばれているような会話から始まったカットは、けれどすぐにお互い無言になった。
話がある、と店に来たのは、桜汰くんに告白するため。
ちょうどカットの時期でもあったから、桜汰くんのほうも、じゃあカットをしながら聞こうか、という感じだけれど、いざこうして自分から言おうとなると、なかなかそのきっかけがつかめなかった。
準備はもう整っている。
あとは言うだけなのに、なんでこんなに心臓が痛いんだろう。
でも、なんか言えない。なんか言えない。
そんな時間が刻々と過ぎていく。
「里歩子、次、前髪だから」
「あ、うん」
言われて条件反射で目を閉じる。
けれど、桜汰くんの姿が見えないなら言えるかといえば、なかなかそうもいかない。