やさしい恋のはじめかた
少しずつ伸びていく私の髪を見守ってきた雪乃や堂前さん、それから大海が私に向けるまなざしは、とてもとても温かく、愛にあふれたもので。
毛先を揃える程度にカットを続けてくれていた桜汰くんもまた、数か月に一度、店に足を運ぶと、そのたびに雪乃たちと同じまなざしを注ぎ、丁寧に髪にハサミを入れてくれた。
みんなの愛を感じながら髪を伸ばしてきたこの一年は、きっと一生の私の宝物。
私の髪が長いのは、みんなへの信頼の証、私は大丈夫という証明。
それらをしっかりと胸に抱いて、今――。
「こんばんは、桜汰くん。今日は話があって来たの」
照明が落とされ、closeのプレートが表にかかっている営業後の店内。
今日もいつもと変わらずマネキンを相手に腕を磨く桜汰くんが勤めるヘアーサロンのドアを、私はそっと開けた。
「おお、里歩子。4ヶ月ぶりくらい? まあ、いつもの席に座って。話はそれから」
「そうだね、そのほうがいいよね」
マネキンから顔を上げ、笑顔を見せた桜汰くんに促さるままに私も笑顔を返して、いつもの定位置――通りに面した窓際の席に腰を落ち着ける。
以前はそれこそ隔週ペースのように頻繁に座っていたこの席も、この一年では数える程度。
桜汰くんともカットのとき以外は会わなかったから、こうして鏡越しに「今日はいかがいたしましょうか」なんておどけた調子で聞いてくる彼と目を合わせるのは、本当に久しぶりだ。