やさしい恋のはじめかた
それから少しして、料理が運ばれ、それぞれに箸を伸ばしはじめると、大海は今日の本題である“お見合い”の話をようやく持ち出した。
その顔は悪巧みしているような、ちょっと楽しんでいるような雰囲気があるけれど、私はそんな大海とは反対に一瞬だけ息が詰まる。
『会いたい』と連絡をもらったときから、今日は絶対にこの話になるという確信はあった。
だからそれなりに覚悟をしてきたつもりだったのだけど、やっぱりいざ話が始まると思ったようにポーカーフェイスは気取れない。
お見合いをする目的は、部長の顔を立てるための形式上のことだけ、そこで凛子さんの“河野大海”のイメージをぶち壊す? ……本当に?
ねえ、本当に?
心に得体の知れない黒いものが充満していく。
だけど。
「あはっ、私のことは気にすることないよ。そんなに困ってるんだったら、もっと早く私の方から『お見合いしてきて』って言えば良かったね。こんなに困ってる大海、初めて見るかも」
「里歩子、あのなぁ」
「ウソウソ、話してくれてありがとう」
「……まあな。それより、今まで話せなくてごめん。自分でなんとかしようと思ってたんだけど、部長にはなかなか歯が立たなかった」
「うん、分かってるから」
私は精一杯の明るい笑顔を作った。
いくら“河野大海”といえども逆らえない人がいたって当然で、むしろ私はここまでお見合いを断り続けてくれたことに感謝するべきだ。
そう--“彼女”として。