やさしい恋のはじめかた
けれど、胸に広がっていくモヤモヤしたものが完全に晴れるわけではもちろんないし、私より凛子さんのほうが大海には相応しいんじゃないかと思ってしまう気持ちも拭い去れない。
だって彼女は私よりずっとずっと大海が好きそうだった、私よりずっとずっと綺麗で、長い髪もよく手入れされていて、深夜になるとメイクが剥がれ落ちたホラーな顔で残業している私とは違って肌だってプルツヤしていた。
凛子さんは私とは桁違いに“女性”だ。
そんな彼女を目の前にして、果たして大海はお見合いの席では御法度の飲酒なんていう真似を本当にするつもりなんだろうか……。
そこまで考えて、無性に髪が切りたくなる。
卑屈に物事を捉えすぎて、自分で自分の首を絞めるみたいにどんどんネガティブな方向に自分を追い詰めていってしまうこの気持ち全部、桜汰くんに切り落としてもらいたい。
そうしてお猪口の日本酒を一気に煽ると。
「でも里歩子、本当にいいのか?」
「え、どうして?」
大海がそんな私を見て気遣わしげに訊ねてきたので、私は思わずきょとんと聞き返した。
いいのか?も何も、自分だけではもう断り切れなくなったからお見合いをしてもいいかと私の了承を取りに今日誘ってくれたんでしょう?
不思議なことを言うなと思いつつも大海の次の言葉を待ってみると「里歩子が本当に嫌なら断るよ」と、困ったように笑いながら彼は言う。