やさしい恋のはじめかた
3.縋って泣きたいお年頃
 
それから半月ほどが経った頃。

かねてから噂だった大海と人事部長の娘さんである凛子さんとのお見合い話は、思わぬこじれを伴いながら私の耳に入ってくることとなった。


生理が来なければ不安なくせに、来たら来たで憂鬱な気分になりながらトイレの個室から出ようとすると、メイクを直しに来たのだろう数人の若い女子社員たちが入ってくるのとちょうど重なり、なんとなく出そびれてしまった。

彼女たちは、今度行く合コンの話や男性社員では誰がタイプかなどをキャッキャと楽しそうに話していて、その流れなのだろう、一人の子が「そういえば」と大海の話を始めたのだ。


「前々から、上谷部長の娘さんとのお見合い話があったじゃない? あれ、聞いたところによると、本格的に動き始めたみたいよ」

「え、マジ!?」

「なんか、娘さんのほうから逆プロポーズしたとかなんとかって話でさ。河野さん、今まで浮いた話とかなかったじゃない? だから、そこまでされたからには、やっと腹を決めるんじゃないかっていうのが男性社員の見方らしいよ」


そんな……大海の話と違う……。

先週末に席を設けたというお見合いが終わったあとにちゃんと連絡を寄越してくれて、電話口で『これでもう部長が乗り込んでくることもないから安心して』って、そう言ったのに。


「そうなんだ、なんかショック……」

「とうとう“幻泉堂の河野大海”も結婚かぁ」
 
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