やさしい恋のはじめかた
「彼氏の前では弱いとこを見せらんなくて、俺んとこで泣くだけ泣いて髪切ってさ。頑張っても頑張ってもそのたびに打ちのめされて、また俺んとこで泣いて。……そんなの、放っておけなくなるに決まってんだろ。相手が自分よりずっと出来る男でも彼氏は彼氏だろ。彼氏の前で弱いとこを見せらんない時点で分かれよ。だからこんなに短くなるまで髪切っちゃうんだろ……」
スッと桜汰くんの手が伸び、私の髪に触れた。
壊れ物を扱うときのような手つきで何度も私の短い髪を梳く桜汰くんの手は、安心感を覚えるような、けれど同時にここまで短くしてしまった罪悪感を私に芽生えさせ、涙が零れる。
「苦しいならいっそ全部捨てちまえばいいのにって思いながら、それでも言えずに今日まで来た。仕事で上手く行かなくても、彼氏との関係で不安になっても、一生懸命頑張ろうとしてる里歩子には口が裂けても言えることじゃない、って。……でも、これ以上髪を切らせたくないし俺だってもう切りたくない。こういうときに言うのは確かにズルいけど、俺のために髪を伸ばしてほしい。……言いたいのは、それだけ」
言い終わると、抵抗する間もなく肩口に引き寄せられ、ふわりと桜汰くんの体温に包まれた。
背中に回された両腕が私を優しく抱きしめる。
その腕を、体を、振り解くことこそ大海が好きだという絶対的な証明になるはずなのに。
「ううっ……私だって伸ばしたいよ……」