やさしい恋のはじめかた
「浮気? 里歩子が?」
「うん。体の関係とかは誓ってないし、好きは好きでも大海に向かう気持ちとは違ったものだったけど、でも、大海にとっては浮気と同じことだと思う。いつも髪を切ってもらってた美容師さんのこと、大海も知ってるでしょ? その人に、ずっと話を聞いてもらってて。大海よりも精神的に甘えてたんだ」
ね、浮気でしょ? と、同意を求めるように大海の目を見つめて小さく笑う。
椅子に座ったことで距離が近づき、よく顔が見えるようになったけれど、大海のその目は何を思っているのか感情が見えなくて、でも傷つけたことは確かで胸が抉られるように痛い。
……ごめんね、大海。
一番甘えていいはずの大海に一番甘えられずにいた挙げ句、大海よりも精神的に甘えていた、だなんて言って。
なんて私は自分勝手なんだと思う。
大海には大海の考え方があって当たり前で、甘えて欲しいってずっと思っていたのかもしれないのに、それを聞くこともせずに勝手に自己完結して強がっていたのは私だ。
本当に勝手すぎて、そんな自分が嫌いだ。
でも、話し出したら、もう止まれない。
「私ずっと、大海に釣り合う自分になりたかったの。仕事でいい成果を上げて、大海が堂々と『彼女だ』って紹介できるような、そんな自分になりたくて、大海にはどうしても弱音を吐けなかった。そんなことで、って失望されたらとも思ったし、だったら仕事を頑張るしかないって思って、髪を切ってもらって気持ちを切り替えてた。でも、情けないことに、あれから3年経っても結局これでしょう? ……そういう話をね、ずっと聞いてもらってたの」