やさしい恋のはじめかた
散々心配をかけてきて、返せるものがこれしかないのが本当に申し訳ないし心苦しい。
でもきっと、みんなが一番に望んでいるのは、それしかないと思う。
すっと立ち上がり、真っすぐに桜汰くんを見つめる。
深く息を吸って、吐き出して。
「これは私の勝手なお願いだから、待っててほしいなんて言わない。でも、歩いてくるところは、できれば見ててほしい。……今はこれしか言えなくてごめん。それでも私--」
「わかってるよ。けっこう長いこと片想いしてきたんだ、そんなの今さらでしょ」
意図的に言葉尻を濁して続きを預けると、ふっと笑って桜汰くんがそれを引き継いでくれた。
ふたりで目を見合わせて笑って、そのうちなんだかおかしくなって、声を上げて笑って。
そうしていると、「次の撮影に入るんで、また髪直してもらってもいいですか?」とスタッフの人が声をかけにきて、桜汰くんと連れ立ってスタジオに戻る。
さっきと同じようにスタジオの隅っこで髪を直す桜汰くんを見つめていれば、今度は堂前さんが私の隣にすっと並んだ。
「こっちの答えも出たみたいだね」
かと思えば、たったそれだけを言って、すぐにべつのスタッフのところへ行ってしまう。
返事をする暇さえ与えてくれないとは、さすがプライベートも性格も謎の堂前さんだ。
でも、彼のことだから、どんな返事が返ってくるかは、スタジオに戻ってきた私の顔を見た瞬間にばっちりわかったに違いない。