やさしい恋のはじめかた
7.やさしい恋を始める頃
 


それから約一年――。

あの日撮影されたCMやポスターは、その年の賞を総なめにし、桜汰くんや堂前さんは一躍時の人となった。

幻泉堂の名前や桜汰くんが働くヘアーサロンもますます有名になり、会社は嬉しい悲鳴続き、桜汰くんのほうもひっきりなしに指名が入り、半年先まで予約でいっぱいだとか、なんとか。


そして、大海と私の関係はというと、あれからほどなくして恋人関係を解消し、今は上司と部下としての関係に戻っている。

しばらくして上谷部長の娘さんの凛子さんと正式に付き合いだしたという話も聞いて、そのときほどありがとうと心から思ったことはない。


雪乃とは相変わらず仲良くやっている。

外に飲みに行くこともあれば、お互いの部屋で飲むこともあって、最近できた雪乃の彼氏ののろけ話や愚痴を肴に、楽しい週末を過ごしている。


稲塚くんも大海や堂前さんに負けまい、追いつきたいと、もともとの一生懸命さにさらに磨きがかかった。

そんな彼をはじめとする企画部のみんなを縁の下から支える仕事に就いている私も、今まで以上に仕事に対する生きがいや、やりがいが多く感じられるようになり、とても充実した日々を送っている。


髪は、やっとというか、とうとうというか、ようやく目標にしていた肩まで伸びた。
 
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