私を本気にさせないで
それと同時に唇は離れ、艶っぽい唇を親指で拭う色っぽい彼の姿が目に飛び込んでくる。

いまだに心臓はうるさくて、さっきまでのとろけるようなキスの余韻に浸るように、私の頭は機能してくれない。
ただゆっくりと離れていく彼の姿を見ていることしか出来ずにいた。

「大丈夫です」

彼のその声にハッと我に返る。

ちょっ、ちょっと待って。
私ってば今、彼となにしちゃったわけ……?

冷静になればなるほど血の気が引いていく。

無事にエレベーターは一階に辿り着き、ゆっくりとドアが開いた。

「白田先輩、降りますよ」

「――え?」

気付けば彼がドアを押さえてくれていた。

「えって……まさかずっとエレベーターから降りないつもりですか?」
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