私を本気にさせないで
「……っ!ごめん!!」

びっ、くりした。
仕事に集中していたからかな?
自分でも無意識のうちに、書類が見えやすい位置に向かっていて、それは顔を上げれば彼と触れてしまいそうな距離だったから。

慌てて離れるものの、久し振りに見た至近距離での彼の顔が頭から離れてくれなくて、ひたすら視線は下へと向かていく。

だってたった一瞬思い出しちゃったから。
あの日の彼とのキスのことを――……。

ドキドキとうるさい心臓は、シンと静まり返る会議室内に響いているような気がしてならない。
それくらいドキドキしちゃっている時だった。

急に大森君が膝の上で強く握りしめられていた私の手に、そっと触れてきたのは――。

「……っ!」

驚きのあまり声も出なくて、ただ顔を上げれば、いつになく艶っぽい表情をした大森君が視界に飛び込んでくる。
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