異聞三國志
「み、未来とな・・・。にわかには信じられん。して、ではこれから我が国はどうなるのだ、教えてくれ・・・。」

孔明は切実な思いで尋ねた・・・。

士郎は一瞬言葉に詰まった。

“蜀は滅亡するし、孔明ももう少しで死ぬ・・・。だが現代の中国は繁栄してるから。”

「いや我々の時代のお国は繁栄してますよ。我々より少し前の時代の苦難を乗り越えて。」


「そうか、いや私はそなたたちが知っている蜀漢の未来と儂の死期じゃ。そこが知りたいのだ。」


「それは・・・お国は後100年は持ちますから。」

士郎はひきつって答えた。

「儂はどうなのだ?なあ、教えてくれ。」

「未来をお教えできませんよ。そしたら、その時まで、あと何日間とか・・・、閣下がお苦しみになるだけですよ。」


「確かに・・・。忠告かたじけない。」


士郎は逃げた自分が嫌だった。でも、自分の知る史実ならばあと3年位で死ぬ運命なのだ・・・。とても、本当のことを語る勇気が士郎にはなかった。

理沙子は詳細な歴史は覚えていなかったので黙っていた。しかし、士郎の表情から見て、察していた・・・。

「これからの我が国はどうなるのだ。」

「それは・・・。我々の知る歴史ではこうなっています。」と士郎は五胡十六国、南北朝、隋、唐、五代十国、宋、元、明、清、中華民国、中華人民共和国と流れる大まかな中国史の流れを聞かせた。

但し、中国を一旦統一したのを蜀と孔明を思いやるあまり、答えてしまった。

まさか、今のライバル的存在の司馬懿の子孫が統一したとは言えなかったのである・・・。


「そうか、我が国は夷狄に滅ぼされるのか・・・。やはり夷狄対策は充分にしないとならないのだな。」

と孔明は唸った。

夷狄とは漢民族以外の周辺の異民族をさす。

東夷、北狄、西戎、南蛮

と古代の周の時代から四方の異民族を蔑んで呼んでいた。それを称して東夷の“夷”と北狄の“狄”をとり、夷狄と呼んだのである。
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