イジワル同居人は御曹司!?
台車がたしかフロアの隅に置いてあったはずだ。

「だ…だ…」

朦朧とする意識の中、私は声を絞りだす。

「わ、わかった。抱っこか?抱っこだな」

奏さんは引きつった顔でコックリ頷いた。

いや、違う、全然違う。わかってない。

私が否定するより早く、奏さんはスーツを脱いで、私の上に掛ける。

何をする気だこのメガネ。

そのまま私の腰にそっと腕を回した。

「え、いや、違う!ちょっと待って…」ください、と言い終わる前に私の身体がフワリと宙に浮く。

「まさかの抱っこ…」

ゆうぽんはア然とする。

「おい、ギャル!医務室はどこだ?案内しろ」

奏さんは緊急事態にスッカリ素が出てしまっている。

「は、はい!」

「行くぞ!」

奏さんは躊躇することなくそのままフロアを突っ切って行く。

オフィスで抱っこ…。

あり得ない光景にすれ違う人が目を丸くしてこちらを振り返る。

恥ずかしさのあまり顔を伏せた。

ああ…もう会社には来られないかもしれない。
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